業者の徹底比較調査
都心部こそは、植民地時代の整然とした町並みを残し、その間から援助で建設された近代的なビルが立ち上がっている。
だが、一歩中心街を出ると、そこにはすさましいばかりのスラムがひしめいている。
下水はあふれかえっているのに、共同水道は水がチョロチョロしか出ない。
それもあればまだましな方だ。
いたる所にゴミが投げ捨てられて悪臭が漂い、六畳ひと間ほどの掘っ建て小屋に一〇人以上がひしめく。
アフリカ、アジア、中南米の大都市は、どこも収容能力以上の人口が集中し、飢餓、失業、住宅難、犯罪、疫病などが吹き溜まって都市機能がマヒ状態に陥っている。
何より、住人たちの希望のない表情のない顔を見ていると、いよいよ絶望感が重くのしかかる。
公共交通機関の代用でもあるトラック改造の私営バスは、窓わくまで人がしがみついて、まるで人間の塊が道路を疾走していくかのようだ。
そのようなバスを乗り継いで、毎日多くの人々が都市に流れ込む。
急激な人口増加で農村からはみ出し、農地の荒廃や災害で農村を捨てた人々が、生きる道を求めて都市に流れ込んでくるのだ。
都市学者の中にはこれを「都市のガン化」と呼ぶ人もいる。
地球のあちこちでますます増殖する悪質なガンにどう対処していくか。
人類にとっては、二一世紀に向けて緊急の課題である。
この「ガン化」がもっとも進行しているのは中南米だ。
その中でも、メキシコ市は「末期ガン」の状態にあるといってよいだろう。
ロンドンは人口が一〇〇万人から八〇〇万人になるのに一三〇年かかった。
メキシコ市はそれをわずか三〇年、つまり一九四〇〜七〇年の間にやってのけた。
ロンドンはそこで膨脹が止まったが、メキシコ市の方はそれから一五年間で倍増、八五年に一八〇〇万人を突破して、東京・横浜圏を抜いて世界最大の都市圏になった。
すでに、メキシコの全人口の四分の一がこの町に集中している。
メキシコの人口密度は一平方キロ当たり四〇人二九八五年)で日本の八分の一だ。
だが、メキシコ市だけは一平方キロ当たり一万七〇〇〇人というとてつもない数字になる。
過密都市の代名詞のようにいわれる東京の一万四〇〇〇人と比較してもはるかに上回る。
それでも、一日当たり1000人が流入してくるという膨脹は止まず、市当局の予測では、二〇〇〇年までに二六〇〇万人になる。
だが、その見通しも甘いとする批判も強く、国連は三一〇〇万人、メキシコの専門家グループは三六〇〇万人になると予想している。
いずれにせよ、想像もつかない超巨大都市が誕生することになる。
四方を山に囲まれたメキシコ市を山の方から眺めると、隙間もないほど大小のビルが詰まった盆地の上空を、茶色味を帯びたスモッグの厚い層が覆いかぶさっている。
これが、かつて「世界でもっとも空気の澄んだ町」といわれた同市の今日の姿だ。
都心に足を踏み入れると、慢性的に渋滞した車の洪水と鼻につく排気、耳をろうするクラクションの合奏。
一日に交通機関を利用する人は延ベー八〇〇万人を超える。
この半数はバス、四〇〇万人は自家用車、残りは地下鉄やタクシーで移動する。
朝晩のラッシュの都心は、時速四キロ、昼間でも一〇キロで走れればよい方だ。
郊外に住七人は通勤に往復二時間半もかかる。
三〇〇万台の自家用車と七〇〇〇台のバスの多くが老朽化して、排気ガスの出し放題。
しかも、全メキシコの工場の半数に当たる一二万の工場がひしめいている。
一日の大気汚染物質の排出量は一一万トン。
だが、海抜二二四〇メートルのメキシコ市では、大気中の酸素の量が平地より三〇%も少ないために、エンジンやボイラーは不燃焼を起こして、一酸化炭素の排出量が二倍になる。
しかも、市を屏風のように山々が取り囲んでいるために、汚染大気は拡散しない。
近代的ビルの林立する都心部の周辺には,ありあわせの材料でつくったスラムが密集する。
このために、呼吸器障害を起こしたり排気ガス中の鉛で中毒にかかる人が多く、メキシコ大学の調べでは、一五歳以下の子供の二〇%が鉛で中枢神経を侵されているともいう。
年間の公害病死者は一〇万人を超え、この内の三万人は子供だ。
町の美化のために、一九七六〜八二年に一四〇〇万本もの並木が植えられたが、数年たたないうちに、半分以上が大気汚染で枯れたり弱ってしまった。
町の中心は、洗練された店やレストランが軒をつらね、近代的なビルの間を噴水が彩って多くの観光客をひきつけている。
だが、この近代的な町を一歩踏み出すと、まわりはスラムが占拠する。
代表的なスラムである空港付近は、二五年前はテクサココ湖のほとりの何もない所だったのが、今では二五〇万人が狭い地域にイモの子を洗うように生活している。
人口数十万人を超えるスラムが、市の中心部を囲むように九つも存在し、その一つ一つが日に日に膨れ上がっている。
都市としての機能は、もはや破綻状態である。
二〇〇万人は上水道がなく、三〇〇万人は下水道がないところで暮らしている。
毎日一万四〇〇〇トンのゴミが出るが、収集され処理されているのは八〇〇〇トンだけ。
残りは、そのまま埋め立てられるか道端に捨てられる。
市内のサンタフエにあるゴミ捨て場には、ペペナドレスと呼ばれるゴミ拾いだけで生活しているスラム住人が二〜三〇〇〇人もいて、残飯や金目になりそうなものをあさっている。
おまけに、一日に汲み上げる地下水は三七五万トン。
このうちの二〇%は、給水の途中で漏水によって失われている。
もともと湖を埋め立ててつくった町だけに、地下水汲み上げで地盤の沈下がひどくなっている。
一九三四年に完成した国立美術館は三メートル、一六世紀にできたサンフランシスコ教会は「五メートルも建物全体が沈んで、後でつくった階段を下りなければ、入口にたどりつけない。
失業率は公式には一〇%台だが、あくまで〈正規〉の雇用の話だ。
現実にはスラム住民は靴みがき、花売り、タバコのばら売り、日雇い、といった〈非正規〉の職業や、売春婦、犯罪者といった〈非合法〉の手段で生計を立てているものが少なくない。
実際には四〇%以上は失業しているとみられる。
それに、年間五〇%から一〇〇%を超える超インフレが続き、数十%の物価上昇が追い討ちをかける。
この結果、犯罪は年間三〇〜四〇%ずつ増加している。
スラム住民は、あらゆる公害の真っただ中に住んでいる。
たとえば、中南米最大のセメント工場のある市内のサンタリタでは、周辺がスラムに占領され住民の六〇%が粉塵のために呼吸器の異常を訴えているという。
八四年一一月にガスタンクが爆発して1000人もの犠牲者を出したが、この多くも周囲に住むスラムの人たちだった。
この混乱は、都市機能の三倍以上に人間が詰め込まれている上に、都市計画がまったく存在しないままに広がったことが原因である。
こうなったのも、第二次大戦後の好景気で首都に工場が乱立、農村から労働者が殺到したためだ。
彼らの二、三世が、高い出生率に支えられて増え続けている。
都市集中は一方で、極端な都市偏重の政策を生み出す。
メキシコの場合、国内総生産の四五%と銀行取引の七〇%をメキシコ市が独占している。
全雇用の四割、国家公務員の七割、教育投資の六割が集中、全大学の三分の二も市内にある。
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